昔矯正治療をしたけれども、痛くて断念した
2020/01/13
60を過ぎた患者さんが言っていたことである。
この方が小学生の頃なので、50年ほど前であろう。
当時はまだフルバンドの時代であったうえ、ワイヤーもステンレスしかなかった。
フルバンドは、すべての歯にバンドを装着するもので、これを行うためには半日かかったという。
今でも大臼歯にバンドを使うことはあるが、力ずくで入れると患者さんは涙を流すこともある。
ダイレクトボンディング法が開発されて、この苦痛はまさしく雲散霧消した。
一方、ワイヤーについても、現在はチタンニッケル合金を用いた柔らかいものが主流となっている。
ステンレスワイヤーは固いため、より弱い力を出そうとすれば、多くのループを曲げる必要がある。
しかし、実際にはループなど曲げずに硬いワイヤーをそのまま入れるということの方が多かったものと思われる。
当然、痛いだろうし、無理やり入れれば永久変形を起こすため、大きく変位したような歯の移動は困難だったであろう。
結果として、「痛くて治療を断念した」という人も多かったのではないかと推察する。
この患者さんも、主訴であった上顎側切歯の口蓋側転位は改善されないままであった。
現在であれば、それほどの苦痛を感じずに治療の効果は出ていただろうと思う。
側切歯1本で人の一生が変わったなどというつもりはない。
ただ、何本かの欠損があることを見ると、もしかしたらそれは防げたのかもしれないと思うところである。