将棋に「二歩」というものがある。同じ列に2枚目の歩を打ってはいけないというものである。いわば反則である。これをやれば当然負ける。

反則ではあってもついうっかりやらかすことがあるらしい。まさかプロがそんなへまはやるまいと思ったら、年間いくつかはあるのだという話である。将棋部の友人は、対局の際「二歩打て、二歩打て」と念じていたという話をする。

ＮＨＫのテレビ対局でこれをやった人を見た。橋本崇載先生である。誰との対局だったか忘れたが、解説者が「どうするんでしょうね」というほどの絶望的な局面であった。次の瞬間、「までＯＯ手でＸＸ先生の勝ちとなりました」と告げられて、一瞬何が起こったかわからなかった。

以来、橋本先生は揮毫するとき「一歩千金、二歩厳禁」と書いているとあった。自虐ねたのパフォーマンスである。さすがにプロはうまいことを書く。と同時に、自らの失敗をねたとして使うとはさすがにファンを喜ばせようというプロのことはあると感心する。

関心ついでにはたと気が付いた。これは、おそらくファンを喜ばせようと思ってわざと打った二歩であろうと。局面は絶望的で、いつ投了してもおかしくない状況であった。同じ負けなら、二歩を打っても負けは負け。

そうだとすれば、さすがにプロである。奇抜な髪型同様、強いだけでなく、ファンを喜ばせるのもプロのあり方なのだろう。

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