機能的矯正装置は効くのか
2020/09/10
矯正装置を分類すると、いくつかのジャンルに分かれるが、その中に機能的矯正装置というものがある。
主に上顎前突が多いヨーロッパでよく使用された装置である。
「機能的」とは、下顎の位置を変えることによって、元の位置に戻ろうとする力をもちいるものである。
前方に出せば後ろに下がろうとするし、後方に下げれば前方に出ようとする。
上顎前突であれば、上顎骨や歯を下顎が後方に引っ張る形となる。
さらに、下顎が常に前方位を取っていることで、成長が促進されるという。
もっとも、下顎というものは前方にはかなりだすことができても、後方にはほとんど下がらない。
昔(今もそうかもしれないが)、某大学で反対咬合を治すという装置を実習で作っていたと聞く。
これを真に受けて、顎が痛くなった患者が多発したであろうことは容易に想像がつく。
では、下顎前突はだめでも、上顎前突の人はこの装置を使ってことごとく正常な咬合になったか。
残念ながら、そうなった人はごく一握りで、ほとんどの人はせいぜいちょっと歯が動いたか、二態咬合になっただけだろう。
ものの本には、これでこんなに良くなりましたという写真がいくつも載る。
しかし、ちっともよくなりませんでしたという写真が載ることは絶対にない。
すると、何も知らない人は、これさえ使えば上下顎のコントロールは自由にできるのだと信じてしまう。
これが効果をあらわすのは、かみ合わせが深いローアングルの患者さんで、噛み合わせの浅いハイアングルの患者さんで使えば、逆に悪くなることもある。
単に下顎を後方に回転させてしまうだけの結果になるからだ。
かみ合わせが深いと、下顎は前方への成長が阻害される。
そういう症例で、かみ合わせをあげることにより下顎が前方に成長できるようにしてやる。
ただし、それだけでは小臼歯部がかみ合わない。
そこで小臼歯部のレジンを削って挺出させて噛み合えるようにしてやるのである。
ただ、ローアングル症例でもすべての症例でそうなるというわけではないことに注意が必要である。
いくらよく使っても逆に下顎が後退するようであれば、それは使えないということになる。
矯正治療は成長をコントロールできると勘違いしている歯医者は多い。
それができるのであれば、私の身長は180センチになっていただろう。